千歳市「そなえーる」視察記|小4から始まる生きた防災学習と二次被災を防ぐ知恵

目次

― 小4から始まる“生きた防災学習”と、伝える工夫 ―

千歳市防災学習交流センター「そなえーる」を視察しました。
ここは、災害を「知る・体験する・備える」を一体で学ぶことができる、市民のための防災拠点です。
災害対策本部機能を備え、市内の防災教育の中心的な役割を担っています。

子どもたちの学びが、地域の防災力を支えている

千歳市では、市内の小学校4年生以上の約9割の児童が「そなえーる」を訪れています。
胸骨圧迫・AEDの使い方、応急担架の作り方、転倒家具からの救出、段ボールベッドの組立――
どれも「自分と家族を守るために、何ができるか」を学ぶ実践的な体験です。

小4で体験を済ませているため、中学生になると「知っている」から「できる」へ自然にステップアップできる。
職員の方も「小学生での経験が中学で生きている」と手応えを語っていました。

年代に応じた“経験値”で教える工夫

そなえーるでは、小学生から中学生にかけて、内容を段階的に変えながら教えています。
たとえば中学生には、心臓マッサージだけでなく、AEDを使った実践的な訓練へ。
段ボールベッドづくりでは、ただ組み立てるだけでなく、「声かけ」「保温」「体位管理」など、
被災者への“思いやり”までを含めた学びへと発展させています。

しかし、年齢が上がるにつれ、興味関心や取り組み方には差が出てくる。
「やらされている感」にならないよう、伝え方や体験設計に工夫を凝らしているのが現場のリアルです。

二次被災を減らすために

一次被災は予測が難しい。
だからこそ、避難行動中の事故や避難所での健康被害など“二次被災”を防ぐことが、防災教育の核心だと感じました。
厳冬期の避難所では、暖房を入れても体感温度は10度台。
床冷えによる体調不良を防ぐために、段ボールベッドを使って高さを確保する工夫も学びます。
まさに「生活技術としての防災」です。

体験を“怖さ”で終わらせない

地震体験は人気のメニューですが、「アトラクションのように感じてしまう来館者もいる」とのこと。
そこで現在、VR・AR技術の導入を検討し、恐怖心ではなく“正しい行動判断”につなげる体験設計を進めています。
地震を“怖がる”ではなく、“理解して動ける”ように――その教育的視点が印象的でした。

受け入れ体制と実情

子どもたちの受け入れは、町内会、こどもクラブ、子ども消防団が中心です。
受け入れ人数には制限があり、学校の遠足などは受け入れていません。
それでも年間1万人以上が訪れ、累計で10万人を超えています。

現場で聞いた言葉が残る

「小4の時に学んだから、AEDが怖くなかった」
「現場で学んだ声かけが、実際の応急時に生きた」

職員の方が語る一言一言には、“教えた先に命がある”という確信が感じられました。
ただ教えるだけでなく、「伝わる」ためにどうするか――その姿勢こそ、この施設の価値だと感じます。

所感 ― 防災を“生活技術”へ

ここで学ぶ防災は、知識ではなく“生活技術”です。
冷える床から体を守る、傷病者に声をかける、避難経路を確保する。
どれも教科書には載らない、しかし命を守るための実践です。
二次被災を減らすとは、暮らし方を鍛えること。
そなえーるの学びは、その本質を子どもたちに伝えていました。

今回の視察を通じて

今回の視察を通じ、私は「防災教育をどう地域に根付かせるか」という視点を改めて考えさせられました。
小4から中学へと続く学びの流れをつくること、そして防災を“日常の延長線上の行動”として定着させること。
その両輪があって初めて、地域全体の防災力は高まります。

千歳市の「そなえーる」は、その仕組みを具体的に形にしていました。
私たちのまちでも、こうした「継続型の防災教育」や「生活技術としての防災」を育てていくことが、次の一歩になると感じます。

一次被災は選べない。
しかし、その後の三日間は、私たちの行動で変えられる。
そなえーるで学ぶ子どもたちは、まさにその“行動の質”を高めていました。
「知っている」から「できる」へ。
千歳市の取り組みは、次の防災教育のモデルになると強く感じました。

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