国立競技場は「見えない工夫」で人を支えている
― 完成した建物ではなく、設計思想を学ぶ ―
国立競技場のスタジアムツアーでは、建物の迫力や美しさだけでなく、その設計に込められた考え方について学ぶことができました。
普段、私たちが目にするのは完成した建物です。
しかし、その裏側には、「どうすれば安全で、快適で、多くの人に愛される施設になるのか」という数え切れない工夫があります。
議員として現場を見る時、私が知りたいのは、まさにその部分です。

約6万7千人を安全に避難させるための設計
国立競技場は約6万7千人を収容する日本最大級のスタジアムです。
これだけ多くの人が集まる施設だからこそ、安全への備えは欠かせません。
例えば、
- 幅の広いコンコース
- 数多く設けられた階段
- エレベーターやエスカレーター
- 約600枚のデジタルサイネージ(案内表示)
など、人が一か所に集中しないよう細かく設計されています。
防災というと、備蓄や避難所を思い浮かべがちですが、国立競技場で学んだのは、その前段階の考え方でした。
災害が起きてから避難を考えるのではなく、最初から避難しやすい建物を設計する。
これも、防災の大切な考え方なのだと感じました。
「きれいに見える」には理由がある
ガイドさんから聞いて、一番驚いたのが観客席です。
一見すると同じ色に見えますが、実は
- 白
- 黄緑
- グレー
- 深緑
- 濃茶
の5色を使い分けています。
さらに、
- 下段ほど濃い色
- 上段ほど明るい色
になるよう配置されていました。
その理由は、
- 神宮外苑の森と調和すること
- 木漏れ日のような景観をつくること
- テレビ中継で自然に見えること
- 空席を目立ちにくくすること
だそうです。
さらに、メインスタンド側とその他のスタンドでは座席の素材も異なっていますが、遠くから見ると同じように見えるよう工夫されています。
「きれいだな。」
その何気ない印象も、細かな設計の積み重ねによって生まれていました。
自然の力を活かす設計
最近の建物は、設備によって快適さをつくるイメージがあります。
しかし国立競技場では、大きな軒(庇)や「風のテラス」、自然換気を活かして風を取り込み、観客席の暑さを和らげています。
さらに印象に残ったのが屋根です。
「あれだけ大きな屋根なら、天然芝には日が当たらないのでは?」
そう思っていましたが、屋根の中央部分には透明な素材が使われており、天然芝に必要な太陽の光が届くよう設計されていました。
観客を暑さや雨から守ること。
そして天然芝を健全に育てること。
一見すると相反する課題を、設計の工夫によって両立させていました。
誰もが利用しやすい施設へ
国立競技場には、
- 約500席の車椅子席
- アクセシブルトイレ
- 男女共用トイレ
- 段差の少ない動線
など、年齢や障がいの有無に関係なく利用しやすい工夫が随所に取り入れられています。
「みんなが使えること」を最初から考えて設計する。
これも公共施設には欠かせない視点だと思いました。
思わず「なるほど!」と言ってしまった工夫
そして、ガイドさんの説明で思わず笑顔になった工夫がありました。
それは……
トイレです。
スポーツイベントでは女性トイレが混雑しやすくなることがあります。
私は、「最新の設備で何か特別な仕組みがあるのだろう」と勝手に想像していました。
ところが答えは、とてもシンプル。
男性トイレの案内表示の上から、女性トイレの表示板をスッと下ろすだけ。
本当に一瞬でした。
「えっ、それだけ?」
思わず笑ってしまいました。
でも、その瞬間に気付きました。
大切なのは、複雑な設備ではありません。
利用者が困る前に対応できるよう準備しておくこと。
この発想こそが、本当に優れた設計なのだと思います。
建物そのものが日本を発信している
もう一つ印象に残ったのが、日本らしさを建築に取り入れていることです。
国立競技場には、日本全国47都道府県の木材が使われています。
そして、VVIPルームには福井県越前市(旧今立町)の伝統工芸である越前和紙が採用されていました。
建物は、単に利用するためのものではありません。
地域の文化や技術を世界へ発信する役割も持っています。
東京の国立競技場で、福井の越前和紙に出会えたことを、とても誇らしく感じました。
「あわら市らしさとは何だろう。」
「福井らしさを、公共施設でどう表現できるだろう。」
そんなことも考えさせられました。
現場で学び、市政へ
今回のスタジアムツアーで印象に残ったのは、派手な設備ではありませんでした。
避難しやすい動線。
景観と機能を両立した観客席。
自然の風や光を活かす設計。
誰もが利用しやすいユニバーサルデザイン。
そして、日本文化を建築に取り込む発想。
どれも共通していたのは、
「利用者の行動を先回りして設計する」という共通の思想でした。
公共施設は、完成した姿だけを見ても、本当の価値は分かりません。
そこに込められた「なぜ」を知ることで、設計者の思いや利用者への配慮が見えてきます。
公共施設は、利用者に工夫を意識させないことが理想なのかもしれません。
「使いやすい」「安心できる」と自然に感じてもらえれば、それは設計が成功しているということです。
私は現場へ行くたびに、「完成した建物」を見ているのではありません。
「なぜ、この設計になったのか。」
その背景や設計思想を学ぶことが、市政につながる一番の財産だと考えています。
これからも現場で学び、その学びを市政へつなげていきたいと思います。



