90歳を超えてもなお、我流で挑む木工細工職人|黒田でんすけさんの生き方と感謝のものづくり

【職人の手しごと】竹と向き合い、人と生きる —— 笹岡で生まれた感謝の木工細工

——広報あわらの取材協力で、竹細工職人・黒田でんすけさんにお話を伺いました

あわら市の静かな一角で、一本の竹から生まれる繊細な美しさを追求し続けている職人がいます。
今回、広報あわらの取材協力のもと、木工細工職人・黒田でんすけさんにお話を伺いました。

「竹が言うことを聞かないときもあるんですよ」

そう笑顔で語る黒田さん。木工細工の世界に入ったきっかけは、職人肌だったお父様の影響と、ご自身の“ものづくりが好き”という素直な気持ちからだったといいます。
さらに、おじいさまも竹を扱っていたとのこと。三世代にわたる技と想いが、黒田さんの中に流れていました。

木工細工の魅力と苦労——「自然素材は毎回ちがう」

木工細工には、繊細さと集中力、そして自然との対話が欠かせません。
「一本一本の竹に個性がある。だから毎回、新しい気持ちで向き合っています」
気温や湿度、季節によって割れやすくなるため、竹の扱いは一筋縄ではいきません。特に冬場が作業に向いているそうです。

苦しい時に支えてくれた地域への恩返し

黒田さんが特に感謝を寄せているのが、地元・笹岡地区のみなさんです。
「本当に苦しかったとき、地域の方々にたくさん助けていただきました」と、静かに語ってくださいました。
その感謝の気持ちをかたちにしたのが、“椅子のプレゼント”です。笹岡地区すべてのご家庭へ、手づくりの椅子を贈ったといいます。
「一脚一脚に、みんなが幸せに暮らしてほしいという願いを込めて作りました」
木工細工を通して、人と人とがつながっていく——その象徴のような取り組みです。

木工細工は、まるでパズル

黒田さんの木工細工は、単なる工芸品ではありません。それは“パズル”のようだと表現されます。
竹を削り、そこに木をはめ込んでいく。木の木目や色、弾力を見極め、計算された配置のもと、一つの作品が完成します。
「削って、調整して、はめ込んで、また削る」——その繰り返し。
手先の器用さだけでは到底たどり着けない世界。竹と木とじっくりと対話を重ねながら、没頭する時間そのものが黒田さんにとっての喜びだといいます。
パズルのような木工細工は、見た目の美しさだけでなく、作り手の哲学そのものでもあります。

気持ちを込めた作品に、値段はつけない

そんな丁寧に仕上げられた作品の数々に、「譲ってほしい」「売ってほしい」との声が多数届くこともあるそうですが、黒田さんは首を横に振ります。
お金じゃないんです、気持ちなんです。
木工細工はあくまで趣味。そして、日頃お世話になっている方への“感謝の気持ち”を届けるためだけに作っているのだと話します。
その言葉には、物や価値に縛られない、まっすぐな心が宿っていました。話を聞いているうちに、こちらの心まで洗われるような気持ちになったのを覚えています。

竹と生きるということ

作品だけでなく、使う道具までも自分で手づくりする。それが黒田さんの木工細工の世界です。
既製の型やマニュアルに頼ることはなく、道具の作り方から作品の設計、技法に至るまで——すべてが“我流”
自分の感覚と経験を信じ、試行錯誤を重ねながら、独自のスタイルを築いてこられました。
「昔ながらのやり方を大切にしながらも、必要に応じて電動工具も使う。今の時代に合ったやり方を模索しています」
素材となる竹も、1年ほど寝かせてから使うとのこと。

そして今、90歳を越えたからこそ感じる、“余生のものづくり”
「もう残された時間は多くはないけれど、だからこそ、一つひとつ丁寧に作っていきたい」
自然と向き合い、自分の内面とも対話するように、静かに、そして力強く、木工細工とともに日々を重ねておられます。

黒田さんは、「自分はまだまだ」と静かに語ります。
しかし、竹とともに歩んできた人生、道具も技術もすべて我流で築いてきたその姿こそが、
この地に根ざす生きた記録であり、黒田さんの生き方そのものが“地域文化”になりつつある——
そう強く感じさせられる時間でした。

◆黒田さんの作品をご覧いただけます

「ぜひ実物を見てみたい」という方へ——黒田さんの木工細工は、今後あわら市役所内にて展示予定です(詳細は広報あわら5月号にて発表予定)。
また、将棋ファンにはおなじみ、竜王戦の激闘が行われた芦原温泉「美松」内・竜悠の間には、黒田さんが再現した竜王戦最終局の棋譜入り将棋盤が展示されています。
ご縁のある場所で、黒田さんの想いに触れていただければ幸いです。

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